林裕樹先生より国内留学体験記が寄せられました。
2022年4月より東京新宿の国立国際医療研究センター大腸肛門外科に国内留学させて頂いております林です。国立国際医療研究センターは、眠らない街で有名な新宿歌舞伎町から2kmほどしか離れていない、大都会東京のど真ん中に位置しております。大腸肛門外科の力の入れている分野として、大腸癌に対する腹腔鏡手術・ロボット手術、そして腹膜偽粘液腫・腹膜播種に対する手術が挙げられます。
現在、私は腹膜偽粘液腫・腹膜播種の分野を中心に合田先生の下で学んでおります。腹膜悪性疾患に対する手術件数は年間150件程度で実は大腸癌手術件数より多く、週3枠手術枠がありますが、手術がない日はありません。なかでも、腹膜悪性疾患の代表格である腹膜偽粘液腫は年間発症100万人あたり2~3例とされるまれな疾患で、世界的には腹膜切除を伴う減量切除(cytoreductive surgery:CRS)と術中温熱化学療法(hyperthermic intraoperative intraperitoneal chemotherapy:HIPEC)が標準治療とされてますが、日本では限られた施設でしか行われておりません。当施設では北海道から沖縄まで全国各地からあるいはアジア諸国から患者さんが紹介され(セカンドオピニオンは年間150件)、週1~2回CRS+HIPECを行っております。当初は腹腔内に大量に貯留した粘液や散在した粘液結節にただただ圧倒されるばかりでしたが、腹膜切除の剥離層(”腹膜の向こう側”)のアプローチにて各種臓器との境界を見定めて切除していく様子に衝撃と感銘を受け、日々修練を積んでおります。学んでおります。腹膜切除により腹膜の向こう側の解剖を知ることで、今まで切除不能と考えられていた症例に対しても応用することが可能で、今後の拡大手術への糧になると感じてます。また予後不良とされる腹膜播種症例に対しても、診査腹腔鏡による評価の下で適応症例に腹膜切除による根治切除を行っています。ご存じの通り近年のガイドラインではP1/P2症例も積極的な外科的切除を推奨されています。本邦で主として行われているのは播種巣のみを切除する方法ですが、この方法では取りこぼしが多く播種が高度な場合は切除できませんが、腹膜切除の手法を用いることで確実な播種切除を行うことが可能です。
また、セカンドオピニオンをはじめとした新患の共有、治療戦略、最新の文献情報などを、腹膜カンファレンスにて共有し、手術だけでなく特殊な疾患の経験を積んでおります。さらに、腹膜悪性疾患は論文作成の宝庫であり、すでにテーマを数本与えられており準備を進めております。様々な分野にて日々貴重な経験を積ませていただいております。
ちょうど朝ドラで沖縄を舞台とした『ちむどんどん』をやっていたタイミングだったためか、医療スタッフや患者さんと沖縄ネタで盛り上がることも多いです。『なんくるないさー』というワードを東京に来てから30回位聞きました(笑)。スタッフの皆様方に温かく迎えてもらっております。
私生活では、妻と子供達は東京生活にすぐに馴染んで、満喫しております。東京は交通手段が便利で、テレビで見たことのある場所にもすぐアクセスすることができ、周りからの刺激がたくさんあることを実感しております。
最後になりましたが、私のわがままを聞いていただき、快く送り出していただいた高槻教授をはじめ、金城先生、医局長の野村先生、医局員の皆様に深く感謝を申し上げます。今後も精進して参ります。